自転車は組み立て方と調節の仕方タイトル

●自転車職人 竹内正雄さん

池田町でただ一軒の自転車屋さんの「竹内自転車店」。そこでお客に説明しながら、明るくマウンテンバイクを修理している、竹内正雄さん(大正15年生まれの72才・寅年)はバリバリの現役だ。大町市の自転車屋で修行を始めたのが15才、それからずっとこの道一筋の大ベテラン。
「昭和30年代にモーターバイクの波が押し寄せたとき、他の自転車屋はみなバイク屋になってしまった」と、昔を懐かしむように、当時の自転車屋さんの数を指を折って数えた。
「そのときは本当に自転車屋を止めようかと考えたが、バイク屋になるには、またバイクの修行をしなくてはならないしね(笑)」だから、転向は思いとどまったとのこと。

「今では明科と大町と穂高にそれぞれ一軒ずつあるだけ。だから、お客さんは遠いところから来ることになり大変だと思う。それに自転車は斜陽産業、今自転車を必要としているのは通学の学生と自動車に乗れない年寄りぐらい」
「私のように物事をズケズケ言うようなところに来るお客さんは、気心の知れた昔からの人ばかり。孫が学校を卒業するまでは、元気でいてくれよ。なんて、彼らもズケズケ言い返すしね。でも自分を必要としてくれる人が、いるあいだは頑張りたい」と、頬をほころばせ嬉しそうに語る。

「自転車屋をやっている以上、手がけたことのない自転車の部品でも、いつ修理に持ち込まれるか分からないので、ムダになっても部品だけは、きちんと確保しておくんです」と、幾つにも丸められたワイヤーや、積み上げられた部品棚を指して自慢げだ。年を取っても、さすがに職人気質が顔をのぞかせる。
「修理に持ち込まれて、それから部品を調達していたのでは、お客さんは納得しないしね。今どきのお客気質は、安く、早く」と、気短になった近年のお客気質の変わり様を笑う。
竹内さんは、そんなお客さんのためにも絶対に手を抜かない。いや、手が抜けない。 
「どんなことでも、お客さんを区別したり差別したりは、絶対いけないことです」と。

「その日のうちに出来ることだったら、何が何でもその日のうちにやってしまえ。その日に出来ないことなら、いつできるかを、お客さまにきちんと言え」と、修業時代つねにお客さんの立場に立って返事をしろ、と主人に言われ続けたそうだ。
こんな経験からか、「お客さんは直してほしいと持ち込んできたら、直ぐにほしいのだから、てきるだけ早く修理する」を心がけているとのこと。

「昔は技術一辺倒、相手がなんて言おうと黒は黒、白は白というように、言動にもトゲトゲしたところがあったけど、今は黒もネズミ色に白も時には赤と、言えるようになりました。妥協できるようになったと言うことでしょうかね」と笑う顔には、確固たる自信に満ちた技術の上に、年輪を重ねた人間味が加わって、とても素敵な人物に仕上がったという感がある。

「今どきは、リムが1本曲がったからといって、直ぐに車輪を取り替える、というお店ばかり。リムを取り替える技術さえあれば、取り替えるだけで元通りになるし、お客さんの負担も軽くなる。そんな良いことはないだろうに」と、売りっ放しの自転車屋が多いのに嘆く。
黒光りしていてる
竹内さん愛用の道具

竹内さん愛用の道具
パンク修理のために持ち込まれた自転車に向かって、「どれどれ」と、頼まれもしないのに、まずブレーキのきき具合から始めてしまう。目の前に自転車を置かれてしまうと、「乗り心地はどうか? ハンドルの具合はどうか?」と、自転車の健康まで気になってしまうという。
「パンクだけを修理して「ハイ、終わり」とは言えない質でね」と笑っていた。
「だって、修理した帰り自転車の具合が悪かったらと、思うと気になるしね、そうなると看ないではいられなくてね」 まさに、自転車のお医者さんのようだ。

「昔は自転車も高価だったせいか、壊れても修理して大事に使っていたが、今では安く買えるだけに、大切にしなくなったね。組立を請け負った業者にしてみれば、1台でも多く組み立てれば、その分お金になるのだからね。自転車の形さえ出来上がればそれでOK。これでは直ぐに壊れてしまうよ。壊れれたら、また新車を購入してくださいと言うがね」と、売ることばかりに専念している、自転車屋が多いのに顔をしかめる。

「そういう自転車だって、キチンと組み立てれば、長く使えるのにね」
「だから、わたしは新車は箱(組み立ててないパーツの状態)で仕入れて、全部チェックしてから丁寧に組み立てるんですよ。そうすると3世代ぐらい使える自転車になる。同じ自転車でも組み立て方でこうも違ってくるんだよ」
すでに組み上がっている自転車を仕入れても、全部をバラして、確認しながら、もう一度組み立て直しているとのこと。
手間ヒマを惜しまずに、「お客さんがいつまでも安心して乗れる、乗りやすい自転車」を提供するという、ただそれだけのことのために、技術を磨いてきた竹内さんの、自転車職人としての顔は誇らしげだった。


●竹内自転車店 長野県北安曇郡池田町池田1-4101 電話0261-62-2484